サバクフクラガエルってどんなカエルだろう?
世界一可愛いカエルってこれかな?
はい。勘違いされることが多いですが、サバクフクラガエルが世界一可愛いと言われているカエルさんです
あなたのフクラガエルを知りたい気持ちに応えます。
こんにちは。ふくら博士(自称)です。
僕は20年以上フクラガエルの勉強をして、実際に南アフリカを旅して野生のフクラガエルを見てきました。
残念なことに日本では(海外でも)フクラガエルについて間違った情報があふれかえっている状況です。
これではフクラガエルのことを知りたい人が間違ったことを学んでしまいます。
というか、断言します。
あなたも間違えて覚えていることがあります!
こんな状況をぶち壊しフクラガエルの正しい知識を広めるために、当ブログではフクラガエル全種類の【フクラガエル図鑑】を掲載します。
英語の図鑑や学術論文、実体験をもとに書いている記事なので、他の日本語のサイトよりは信頼性が高いです。
(というか、フクラガエルについてはいい加減な情報ばかりですから…。海外の図鑑もまあまあ間違ってますしね…)
さて、フクラガエル図鑑。今回は
サバクフクラガエル(Breviceps macrops Boulenger, 1907)
です。
この記事を読めばサバクフクラガエルについての間違った思い込みが解消され、正しい知識が身につきます。
会話のネタになりますし、フクラガエルコミュニティ(?あるの?)でドヤ顔ができますよ!
読まなきゃ大損間違いなし。
ではいってみましょう!!!
世界一可愛いカエルとは俺のこと!
世間では世界一可愛いカエルは『ナマカフクラガエル』といわれています。
でも、世界一可愛いといわれているカエルは『サバクフクラガエル』です。
どゆこと???
意味わかんないですよね。
はい。説明します。
…… ことの始まりは、南アフリカの写真家 Dean Boshoff くんが 2013年に YouTubeにアップしたこの動画にあります。
このカエル離れしたまん丸の生き物がキューキューと懸命に鳴く姿が大バズり!
Deanくんが動画のタイトルに名付けたように、まさに『Worlds Cutest Frog!』
多くの人が納得し、すっかりこのカエルが世界一可愛いカエルということが定着しました。
さて、問題はここから
Deanくんは、動画をアップした時、概要欄にこのカエルのことを『Breviceps namaquensis』と書いていたのです。
これが間違いのもとでした。多くの人は説明を見て、このカエルを B. namaquensis だと思ったのです。
当時、日本ではこのカエルに名前がありませんでした
そこである日本のメディアが、とある研究者にB. namaquensis の和名を確認し、このカエルを学名に近い呼び名で『ナマカフクラガエル』と呼んだのです。
これ以来、日本において世界一可愛いカエルは『ナマカフクラガエル』ということになりました。
そして、根本的な問題がありました。
それは、そもそもこのカエルはB. namaquensisではなくて、『Breviceps macrops』 だったということです。
Breviceps macrops の英語名は Desert Rain Frog。
そう。サバクフクラガエルです
動画のカエルがサバクフクラガエルであることは、フクラガエルのことを少し知っている人ならすぐにわかることです。
図鑑を見れば一発です…
そしてDeanくんは 2015 年に南アフリカの専門家から指摘を受けて、このカエルが B. macrops だということを知ります。
概要欄を訂正したものの、その頃には世界的にも日本でもB. namaquensis(ナマカフクラガエル)がすっかり定着してしまっていました。
2016年にテレ東の番組で『サバクフクラガエル』と正しく紹介されたはずなのですが、一度定着するとなかなか訂正されません。
恐ろしいことに、あの天下の National Geographic の記事でもこの動画が使われていますが、そこでもB. namaquensisのままです。ファクトチェックしろよ…ナショジオさんよ…。
あえて言おう!
動画のカエルは『サバク』であると!
そう。世界一可愛いカエルはサバクフクラなのです!!!
あ、X(Twitter)で
ナマカフクラガエルとアメフクラガエルを間違っている人大杉。
って書いてる人。ブーメランですよー。
あなたもナマカフクラガエルとサバクフクラガエル間違ってるからネ!
サバクフクラガエルの名前
学名
すでに書きましたが、
サバクフクラガエルの学名は
Breviceps macrops
です。
属名の Breviceps は、『短い頭』という意味です。(【フクラガエルの生物学】を参照してください)
macrops という種小名*はギリシア語由来のラテン語で、意味は英語だと『having large eyes』です。(macro = large, ops = eyes)
日本語なら『大きい目の』という意味です。(*種小名については【フクラガエル全20種類の名前リスト】をご参照ください)
見た目のとおり?体に対して大きい目を持っていることに由来します。
サバクフクラガエルは、1907年に、”Description of a new engystomatid frog of the genus Breviceps from Namaqualand (Annals and Magazine of Natural History, Series 7, 20: 46–47)“という論文で記載されました。
命名者(⬇️)は、George Albert Boulenger(ジョージ・アルバート・ブーレンジャー)。2000種類以上の魚類・爬虫類・両生類を記載した偉人です。
現在名前がついている両生類の6%以上はこの人によって記載されています。
サバクフクラガエルの英語名・和名
サバクフクラガエルの英語名は
Desert Rain Frog
Web-footed Rain Frog
Boulenger’s Short-headed Frog
などです。
2番目の Web-footed Rain Frog は、ミズカキ(水掻き)フクラガエルと訳せばいいでしょう。通好み(?)の渋い名前です。
和名は、サバクフクラガエルが定着していますね。
素直に英語名のDesert Rain Friogを翻訳したものです。
この和名は『レッド・データ・アニマルズ 動物世界遺産 6 アフリカ(講談社 2000)』が、おそらく初めての記述です。著者は松井正文先生です。
サバクフラガエルの基準標本
生き物の名前(学名)は、標本につけられます*。この名前を担っている標本をタイプ標本(担名タイプ)といいます。
*学名と標本についてはこのページを参照してください
Breviceps macropsという名前を担っている標本(ここではシンタイプ*)は、原記載によると3つ。
うち2つの標本番号は、
- 標本 BMNH 1907.6(BMNH: ロンドン自然史博物館)
- 標本 BMNH 1907.6.12.1
です。(残り一つは調べられませんでした)
これらの標本の採取地(基準産地)は南アフリカのナマクワランドとされています。
サバクフクラガエルの特徴
形と色
多くのフクラガエルと同じく、ずんぐりとした体で脚が短いです。
Frogs of Southern Afirica によれば、大きさは最大で 5 cm。平均でメスが 4 cm、オスが 3 cm とのこと。
体の大きさに対して目がとても大きく、サバクフクラガエルの学名の由来になっています。
鼓膜は見えません。
フクラガエルでは珍しく足の指の部分に水かきを持っています。
足は指が水かきで繋がっていてパドル状になっています。指は水かきでつながっています。
背中皮膚は滑らかです。白色か、青みがかった白、もしくは黄色みがかった灰色(金色っぽい)です。一部に黄色が入る個体もいます。
チョコレートブラウンの虫食い模様があります。この虫食い模様は、個体差が非常に大きく、同じ模様の個体はいません。
体の側面から背中の途中までに白い粒状の模様があります。
腹部の皮膚は滑らかで白色。お腹の真ん中の皮膚が非常に薄くなっており、内臓が透けています(血管窓)。これがサバクフクラガエルの形態の最大の特徴です。
この特徴は、水資源の乏しい砂漠地域で効率よく水分を吸収するためのものと思われます。
餌
AmphibiaWeb は、図鑑“中央と南部アフリカの両生類”を引用して、サバクフクラガエルは動物の糞をさがして、それを食べに集まる昆虫(甲虫や蛾)を食べるとしています。
この図鑑の著者のChanning先生は結構いい加減なことを書くので、糞をさがすというのは話半分にしておいた方が良さそうです。
砂漠という厳しい環境ですから、なんでも食べるんだと思いますが。
ちなみに、ふくらがえるの生息場所ではこんな虫を見かけました。思った以上に餌になりそうな昆虫はいそうです。
オス・メスの区別
オスの喉部には深いしわがあるのでオスとメスが区別できるとのことですが、僕は気がつきませんでした。
鳴嚢を膨らませて鳴くので、その部分の皮膚がたるんでシワができるのかと思われます。
活動時期と鳴き声
活動時期
サバクフクラガエルは、他の乾燥地域に生息する種類と異なり、一年を通じて地表に出てくるようです。
地上で活動を行うのは、おもに海からの霧が深く湿度の高い時。僕がサバクフクラガエルを見つけたのは、湿度が54%、気温が21.5℃の夜でした。
次の日の明け方は湿度68%、気温17.0℃まで湿度が上がり、気温も下がっていました。
このように、サバクフクラガエルの生息地は砂漠気候とはいえ、ある程度湿度が確保されるようです。
Channing 先生は、図鑑”Field Guide to the Frogs & other Amphibians of Africa“で、
成体は穴を掘った場所から数ヶ月にわたって数メートルの範囲でしか動かない
とされています。
同じく Channing 先生は、図鑑“中央と南部アフリカの両生類”で、
霧の日でも晴れの日でも地上に出てくる。
砂の上をうろつき回る。(原文 run about on the sand です)
としています。
えぇ〜どっちなん?Channing 先生〜
ちなみに、明らかに10メートル以上歩いた足跡も見かけたので、どちらかというと後者が正しいかな。
鳴き声
鳴き声も年間を通じて記録されています。ただ、霧の深い日に限られるようです。
開けた場所か窪みから鳴くとのことです。
サバクフクラガエルの鳴き声(広告音:オスがメスを惹きつけ、オスには自分の場所を知らせる鳴き声)は、長く高音に上がっていくような音とのことですが、残念ながら僕は現地では聞いたことがありません。
Frogs of Southern Afirica に収録されている鳴き声を聞く限り、鶯の『ホーホケキョ』の『ホー』の部分だけ切り取ったような鳴き声でした。(この図鑑を購入すると、ほぼ全種のふくらがえるの鳴き声が聞けます!)
ぜひまた南アフリカに訪れて聞いてみたいものです。
ちなみに、動画でキューキューないているのは、身の危険を感じた時の鳴き声で、『危難音』というものです。
サバクフクラガエルだけの鳴き声ではなく、他のフクラガエルもかなり身の危険を感じるとまれに同じような鳴き声を出します。
なお、ネットでは(ネット警察をしたいわけではないのですが)
(ナマカフクラガエルは)鳴嚢が発達していないので、小さな声でしか鳴けず、フクラガエル独特の例の声を出して鳴きます。
なんて書かれたりしてますが、書かれていることの全てが間違い。
(本当はサバクフクラガエル、鳴嚢は普通にある、大きな声で鳴く、危難音はフクラガエル独特の声じゃない)
一体それどこ情報なの?どこ情報なのよー!って感じです。
サバクフクラガエル本来の鳴き声(広告音)は全く別物ですので、ご注意ください。
加えて、動画の鳴き声を全てのサバクフクラガエルが出すかというと全くそんなことはなく、僕が出会ったサバクフクラガエルは1頭も危難音を出しませんでした。
なので、あの動画の個体が特別なのか、Deanくんがよっぽど意地悪したのかどちらかだと思います。
あくまでこの動画の鳴き声はサバクフクラガエルに一般的なものではないことを覚えておいてください。
繁殖生態
サバクフクラガエルの繁殖生態についてはよくわかっていません。
でもおそらく、他のフクラガエルと似たものだろうと考えられています。
繁殖期はよくわかっていません。
他の種類との区別
後ろ足に水かきがあることで、ブランキーフクラガエル(B. branchi)とナマクワフクラガエル(B. namaquensis)以外のフクラガエルと区別できます。
お腹の皮膚は滑らかでお腹全体に透明な血管窓が広がっていることでナマクワフクラガエル(B. namaquensis)以外の 全ての種と区別されます。
目の下に黒い帯模様がないことで、ヤミフクラガエル(B. fuscus)とケープオオフクラガエル(B. gibbosus)以外の種と区別できます。
簡単にいうと、『足指に水かきがあって』『お腹の皮が広い範囲で透け透け』で、『目の下に黒い帯模様がない』なら、そのフクラはサバクフクラです。
分布域
サバクフクラガエルの分布域はかなり狭く、図鑑”Field Guide to the Frogs & other Amphibians of Africa“によると、
北は『ナミビアのリューデリッツ(Luderitz)』という街から、南は『南アフリカのクラインゼー(Kleinsee)という街のすこし南』まで、直線距離にして 400 km 程度の海岸地帯にだけ分布します。(この2つの町を車で走ると540 kmぐらい)
IUCN (国際自然保護連合) RED List だと、分布の南端はもう少し南に長く、コイングナース(Koingnass)の少し北までとなっています。
その中でも、満潮線のすぐ上(満潮になると海水面になるところ)から内陸10kmまでの白い砂丘だけに生息します。(土壌でなく、海の砂であることが大事らしい)
海岸沿いにしか生息しないのは、この砂漠気候の地域では海からの霧が水分の補給源になっており、海から離れると霧が届かず生存に必要な水が確保できないためと思われます。
サバクフクラガエルの分布地はとても風光明媚というか、とにかく色が鮮やかで深い。
宇宙まで伸びていることが実感できるような空と、大西洋の深い青。
本当に美しいところなので、ぜひ一度訪れてみてほしいです。
保全状況
サバクフクラガエルは、もともと分布域が狭いうえに、分布地からダイヤモンドが産出するため、大規模な鉱山開発によって生息地が急速に減少しました。
このため、現在では IUCN RED List で、準絶滅危惧種(Near Threatened)に指定されています。
なお、図鑑“南部アフリカのカエル”では、絶滅危惧II類(Vulnerable)となっていて僕もそうだと思っていました。
IUCNの方でランクが下がったか、南アフリカ共和国国内では絶滅危惧II類ということでしょう。
ランクが下がることは稀なので、国内で絶滅危惧種に指定されているのだと思います。
……ちなみに、サバクフクラガエルを探しているときに、一緒に行った方が現地の人に「ダイヤモンドを探してるんじゃないだろうな?」と凄まれたことがあり、結構ガチで怖い世界です。
あ、この地域ではダイヤモンドが安く買えるそうです。いちど商談を持ちかけられたことがあります。本物かどうかわかりませんけど。。
系統的位置と近縁種
Nielsenら(2018)の研究では、フクラガエル属は遺伝的に2つのグループ:『モザンビークフクラガエルグループ』と『ケープオオフクラガエルグループ』に分かれます。
サバクフクラガエルはケープオオフクラガエルグループに入ります。
このグループの中で、サバクフクラガエルはナマクワフクラガエルと最も近い仲間になり、両者はおよそ750万年前に系統的に分かれました。
つまり、サバクフクラガエルと最近縁種はナマクワフクラガエルということになります。
でも、この解析ではブランキーフクラガエルが含まれていません。
ブランキーフクラガエルを入れると、サバクフクラガエルはナマクワフクラガエルとブランキーフクラガエルと等しく近い仲間になります。(ブランキーとナマクワが一番近く、その次がサバク)
まとめ
さて、サバクフクラガエルについて解説しましたが如何でしたか。
世界一可愛いカエルの正体が明らかになりましたね!
しかし、フクラガエルについてどれだけ間違った情報が流れているのか驚いたのではないでしょうか?
正直、図鑑まで適当書いてるけど、どないせいちゅうねん?という世界です。(こわー)
これはもう信頼できる先生の書いた本や論文を読み、さらに自分で調査するしかないんですけどね。
そういう意味で、このブログの情報は信頼していただいていいと思います。
フクラガエルについての正しい知識を広めるために活動しておりますので。。
当ブログでは、ディープなふくらがえるの情報を発信していきます。
では、次の記事でお会いしましょう。See you later !
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