ブランキーフクラガエル【フクラガエル図鑑】

フクラガエルで一番珍しい種類ってなにかな?

ふくら博士

それはブランキーフクラガエル(Breviceps branchi Channing, 2012)で間違いないでしょう!

こんにちは。ブランキーフクラガエルには振られた、ふくら博士(自称)です。

前回の記事で、ナマクワフクラガエルとすごく似ている、ブランキーフクラガエルについて触れました。

このカエルは、発見されてから15年間、ただ1匹しか存在が知られていなかった、まさに幻のフクラガエルです。

今回はそんなカエルについて解説します。

ではいってみましょう!

目次

1匹しか知られていなかった幻のフクラガエル

ブランキーフクラガエルは2008年に、南アフリカ・北ケープ州を流れるホルガット河口近くのダイヤモンド採掘場そばで、ただ1個体が採取されました。(なお発見箇所は立ち入り禁止で、無断で入ると最悪銃で撃たれるとのことです)

ナマクワフクラガエルとすごくよく似ていましたが、少し違った特徴がありました(後で書きますが、正直僕にはわからないっす)

さらに、DNAを調べたところ遺伝的にはナマクワフクラガエルとはかなり違っていることがわかりました(16S rRNA遺伝子の塩基配列の違いが 4.5%ぐらい)

これらのことから、この個体は、ナマクワフクラガエルとは違う新種とみなされました。

そして発見から4年後の 2012 年、Alan Channing 先生(西ケープ大学・名誉教授, ノースウェスト大学・員外教授)が、

Alan Channing 教授

A new species of Rain Frog from Namaqualand, South Africa (Anura: Brevicipitidae: Breviceps). Zootaxa 3381: 62-68″という論文で、このカエルを新種として記載しました。(リンクからは最初の1ページしか読めません)

たった1頭の標本だけから新種記載するのは(最近では)珍しく、その信頼性が少し問題になりました。

そして、発見から15年、新種として記載されてからは11年後の2023 年 11 月。

南アフリカのNGO [Endangered Wildlife Trust(絶滅危惧野生生物保護基金)] の3回目の調査で、

ついに本種が再発見され、2個体のブランキーフクラガエルが採取されたと報道されました。(このページにあるブランキーフクラガエルの写真は、この際の写真を引用したものです)

いずれにしても、これまでにわずか 3 頭しか知られていない幻のカエルであることには変わりありません。(しかも新しく見つかった 2 個体が本当にブランキーかはまだ怪しい)

僕も、ブランキー探しにトライしたことがあります。

調査を行った時期は再発見の時と同じ頃でしたが、気象条件が悪く雨も霧も一切ない状態であえなく惨敗でした。

このカエルは(後述しますが)分布地がピンポイントでわかっているので、場所選びを間違えることはありません。

それでも十数年も見つからなかったことから幻のフクラガエルであることは間違いありません。

ブランキーフクラガエルの名前

ブランキーフクラガエルの学名

ブランキーフクラガエルの学名は

Breviceps branchi

です。

属名の Breviceps は、『短い頭』という意味です。(【フクラガエルの生物学】を参照してください)

種小名の branchi は、ポートエリザベス博物館の爬虫類学者 W. R. Branch(ブランチ)博士に献名されたものです。

ブランチ氏がこのカエルの記載論文が出版される一年前の 2011 年 5 月に博物館から引退したことを記念してつけられています。

というか、フクラガエルの種小名って献名が多いんですよね…。

(*種小名については【フクラガエル全20種類の名前リスト】をご参照ください)

ブランキーフクラガエルの英語名と和名

ブランキーフクラガエルの英語名は、

Branch’s Rain Frog

ブランチ氏のフクラガエルという意味ですね。

これを素直に和名にすると、ブランチフクラガエルになるかと思います。

なお、パワーズフクラガエルみたいに”ズ”をつけてもいいんでしょうけど、あれ言いにくいしダサくないっすか?

同じように献名由来の名前のシュレーゲルアオガエルとかアイフィンガーガエルを、シュレーゲルズアオガエルとかアイフィンガーズガエルっていわないでしょ?

そんなわけで、当ブログでは所有格の”s”を和名にはつけません。

で、素直にブランチでもいいんですがちょっと捻りたい。

そこで、chiはラテン語よみだと”キ”になります。ほら、ロードバイクのビアンキの“キ”です。

で、ブランキフクラガエル。うん、悪くないです。

でももう一声。ブランキーにしてしまえば、(個人的に)語感もいいし語呂がいい。

さらに某バンドみたいで覚えやすい、という理由で当ブログでは、『ブランキーフクラガエル』としました。スペル全然違いますけどね…(Blankeyとbranchi)

是非この和名をご使用いただければと思います。

流行るといいよな──ブランキー、蕩れ。

ブランキーフクラガエルの基準標本

Breviceps branchi という名前を担っている標本(ホロタイプ*)は、2008 年 10 月 16 日に採集されたオスの個体です。

*学名と標本についてはこのページが参考になります

標本は、ベルリンのフンボルト大学ライプニッツ進化生物多様性研究所 (ZMB) の自然科学博物館の爬虫類コレクションに、標本番号 ZMB 77781 として保管されています。

標本の採取地(基準産地)は南アフリカ共和国・ナマクアランドにあるポートノロスからアレクサンダー ベイまでの途中にあるホルガット川橋の西 600 m。です。

ブランキーフクラガエルガエルの特徴

ナマクワフクラガエルとそっくり

ナマクワフクラガエル【フクラガエル図鑑】でも書きましたが、ブランキーフクラガエルはナマクワフクラガエルとすごく似ています。

前に出した写真で恐縮ですが(使える写真がないので)、、、

再発見されたブランキーフクラガエル(?)
Endangered Wildlife Trust Facebook ページより引用
ナマクワフクラガエル(Wikipediaの画像 CC0)

ブランキーフクラガエル(といわれている再発見された個体)とナマクワフクラガエルは写真で見る限りめちゃちゃ似ています。

正直、僕はこれらの個体を別種として区別する自信がないです。

ただ、この写真のカエルが本当にブランキーフクラガエルかどうかはまだ疑問です。

原記載論文のブランキーフクラガエルの写真は、結構ナマクワフクラガエルとは違っているのです。(写真は載せられないのでリンク先から見てください。リンク先 Aがブランキー、 B がナマクワです)

なので、2023 年に新たに採取された2個体が本当にブランキーフクラガエルなのかは、より詳細な形態観察とDNAデータがなければ確認できません。

厳密に言うと、ちゃんと確認するまでは『再発見か?』ぐらいが適当なのではと思います。(もう同定が完了していたらごめんなさい)

記載論文(原記載)での、ブランキーフクラガエルとナマクワフクラガエルの見分けかたは以下のようになっています。

  • 目の下の黒い模様がブランキーだと腕の付け根まで伸びているが、ナマクワだと腕までは伸びていない
  • ブランキーの方がまぶたに対して目が少し小さい(眼窩間隙が上眼瞼の 40% 。ナマクワは50%)
  • 4 番目の指と 2 番目の指の長さ比率が違う (ブランキーは50%。ナマクワは60~80%)
  • ブランキーに は3 番目の指と 4本目 指の下に二重の関節下結節(イボ)があるが、ブランキーだと一つのの円錐状のイボしかない
  • 足の裏はブランキーは顆粒状(ツブツブがある)けど、 ナマクワは滑らか
  • 内側中足骨結節(出っ張り)が目立ち4 本目の指に対して20 度の角度にある。ナマクワでは出っ張りが目立たず、指に対して30~50 度の角度
  • ブランキーの皮膚は全体的に粒々があるが、ナマクワは少なくとも体の前方には粒々はない
  • ブランキーは背中央に 4 つの明るい斑点 があるが、ナマクワは2 つの斑点しかない
  • ブランキーは背中のお尻側の両側に細長い斑点があるが、ナマクワは両側に(大きな)斑点がある
  • ブランキーは足の4 本目の指の下に多数の小さなイボがあるが、ナマクワにはイボが少ない
  • https://zenodo.org/records/5253616ブランキーの3本目の指の下には 24 個の小さなイボがあるが、ナマクワでは 10 個以下である

・・・見分けポイント、めっちゃありますなぁ。

このうち、Channing 先生は、足と指のイボの多さで見分けられることを強調しておられます。最後の3本目の手の指については原著論文でスケッチで解説されていますが、他の点は文章で書かれているだけです。

うーん、確かにこれで見分けられるのかも知れませんが、ブランキーフクラガエルは1個体しか見てないので、種内のバリエーションかどうかどうしても判断できないと思うんですよね・・・。

結局、DNAでブランキーと明確になった複数個体をつかってナマクワと比較しないとちゃんとしたことは言えないんだよなーというのが僕の印象なのですが。。

今後の研究の発展に期待しましょう。

その他の特徴

これまで1個体しか知られておらず、昨年新たに2頭が採取されただけのブランキーフクラガエルの生態は謎に包まれています。

ただ基本的には、ナマクワフクラガエルと似ていると考えられています。

今の所、活動時期もよくわかっていませんが 2008 年には10 月、2023 年には 11 月に採取されているので、南アフリカの初夏にあたる 10〜11 月ごろに活動しているのは間違いなさそうです。

この地域では雨が少ない時期なのでちょっと不思議ですが、2023 年に確認されたときは霧がたくさん出ていた朝とのことで、サバクフクラガエルのように海からの霧を水資源にしているのかも知れません。

ブランキーフクラガエルは鳴き声もわかっていません。

カエルは種が違うと鳴き声が明確に違うことが多いので、鳴き声は種分類の重要な指標です。

将来的にブランキーフクラガエルの鳴き声がわかると分類や探索が簡単になるので、近い将来録音されることが期待されます。

分布域

ブランキーフクラガエルは2008年に、南アフリカのポートノロス(ナマクワフクラガエルの基準産地)の北およそ 40 km のホルガット河の近くにあるダイヤモンド採掘場の入り口付近でただ1個体が採取されました。

2023 年の探索も同じくホルガット河の近くで行われたはずです。

僕もホルガット河の近くでブランキーフクラガエルを探してことがありますが、結果は惨敗でした。

国道382号のホルガット河の橋
ホルガット河近くのダイヤモンド鉱山
ブランキーフクラガエル生息地の植生
背の低い多肉植物で構成されている
砂漠でのカエル探索
天気が良すぎる

なにせ乾燥しすぎてました。

乾いた砂漠地帯を歩きまわる、とてもカエルを探しているとは思えない状況。

それを本気でやるから面白いし、やらなきゃ見つからないんですけどね。

さて、ブランキーフクラガエルは、これまでにホルガット河ちかくの狭い範囲でしか見つかっていません。

また、この場所はナマクワフクラガエルの予想分布域内に完全に含まれています。

これが何を意味するか?2つの可能性があります。

  • ブランキーフクラガエルとナマクワフクラガエルの分布域は重複している(ブランキーは局所的に分布する)
  • ナマクワフクラガエルの分布はホルガット河より南で、それより北にはブランキーフクラガエルが分布する

どちらの可能性もありそうですが、実は、ナマクワフクラガエルが実際に採取されたのはポートノロスが北限で、それより北では採取例がないようです。(Channing 2012の記載論文による。少なくとも標本としては残っていない)

このため、ポートノロスより北でナマクワフクラガエルだと思われていたものは、ブランキーフクラガエルであった可能性があります。(これは2つ目の仮説を支持する要素です)

この問題は、将来的により細かい標本収集とDNAを用いた正確な種同定が行われるまでは解決できないでしょう。

ホルガット河とポートノロスは 40 kmしか離れていないので、物理的にサンプリングは可能と思われます。(生息密度は問題ですが)

いずれこの研究が行われるのではないかと期待しています。

保全状況

ブランキーフクラガエルは現在 IUCN Red List においてデータ不足(Data Deficient)というランクにカテゴライズされています。

ただ、分布範囲が極端に狭そうなことと、個体数も少なそうなことから近い将来絶滅危惧種に指定される可能性が高いと思われます。

ブランキーフクラガエルの系統的位置

ナマクワフクラガエルの記事でも書きましたが、Nielsenら(2018)のDNAを用いた研究によると、ブランキーフクラガエルはナマクラフクラガエルと一番近い種になります。

また、ナマクワフクラガエルとブランキーフクラガエルは700〜300 万年前に進化の道が別れたと推定されます。

この2つの種は、外見はすごく似ていますが、系統分岐した時期は結構古いものです。

フクラガエルの系統関係と分岐年代
ブランキーフクラガエルとナマクワフクラガエルは700〜300万年前に別れたと推定される

まとめ

さて、ブランキーフクラガエルについて解説しましたが如何でしたでしょうか。

これまでに3頭しか見つかっていないカエルってすごくないですか?

しかも、記載されたのはわずかに12年前。比較的新しく知られた種です。

フクラガエルにはまだまだ名前がついていない種類がたくさんいます。

当ブログでは、これらの未記載種についても情報を発信していきます。

では、次の記事をご期待ください!

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この記事を書いた人

フクラガエルの正しい知識を広めるために活動している者です。アメフクラガエルの飼育法決定版を書きました。ぜひ見てください。フクラガエルの生態や、野生のフクラガエルに会いに行くアフリカ旅行の記事も書きます。

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