モザンビークフクラガエルの生態情報を教えてください
リクエストありがとうございます。
紹介します!
でも…正しい情報が少ないんですよ…
こんにちは。ふくら博士(自称)です。
今までに5種類のフクラガエルを解説してきましたが、初めてリクエストをいただきました。
そのまま引用させていただきます。
「モザンビークフクラガエル」の生態情報をお伺いできませんでしょうか?
たとえば体色ひとつにしても、ネットで調べた画像では体が濃いオレンジで、目から腹のあたりが黒い模様が繋がっていて(まるでレッサーパンダのような…)、アメフクラガエルのような斑紋などはないかと思うのですが、
Wikipediaによると「背面は灰褐色で黒っぽい斑点がある。眼と前脚には暗色の筋があり、鼓膜の上を通る。腹部は白色で暗色斑があり、雄では喉が褐色。」とのことでして、これは合っているのか見当もつかずです。
個体差はあるとは思いますが、正確な文献が収集できないため、もしご存じでしたらぜひとも教えていただきたいです!
また、比較的生息域も近い近縁のアメフクラガエルと生態は近いのでしょうか?
今回はこのリクエストにお応えすべく、モザンビークフクラガエル(Breviceps mossambicus Peters, 1854)についてご紹介します。
ただ実は『モザンビークフクラガエルについての正しい情報』ってすごく難しいんですよ…。
実は、僕は現地で “真のモザンビークフクラガエル” を見ていません。
理由はのちほど。
ではいってみましょう!
モザンビークフクラガエルの名前
学名
Breviceps mossambicus
これが、モザンビークフクラガエルの学名です。
属名の Breviceps のとは、『短い頭』というラテン語です。【フクラガエルの生物学】を参照してください。
mossambicus という種小名はラテン語で、そのまま「モザンビークの」という意味です。
このカエルのタイプ標本が採取された土地の名前をそのままつけています。
*種小名については【フクラガエル全20種類の名前リスト】をご参照ください
モザンビークフクラガエルを記載した人はアメフクラガエルの命名者と同じ、Wilhelm Karl Hartwich Peters 。
『Diagnosen neuer Batrachier, welche zusammen mit der früher (24. Juli und 18. August) gegebenen Übersicht der Schlangen und Eidechsen mitgetheilt werden』
という長〜いタイトルの論文で、モザンビークフクラガエルは新種として記載されました。
(一応翻訳しておくと『以前(7月24日と8月18日)に発表したヘビとトカゲ類の概要もあわせた新しいカエル類についての解説』といった意味)
なお、掲載雑誌とページ、発行年は、Bericht über die zur Bekanntmachung geeigneten Verhandlungen der Königlich Preußischen Akademie der Wissenschaften zu Berlin 1854: 614–628(1852)
です。
なお、記載文自体はわずか 6 行・279文字(スペースあり)(⬇️)。
タイトルと雑誌名の方(292文字)が文字が多い!
なお 1852 年の記載は、フクラガエルの中で3番目に古いものです。(ケープオオフクラガエル: 1758 年、カナシフクラガエル: 1842 年の次)
英語名と和名
モザンビークフクラガエルの英語名は、
Flat-faced Frog
Mozambique Blaasop
Mozambique Rain Frog
Flat-faced Rain Frog
などです。
Flat-faced は顔が平たいという意味です。テルマエロマエで出てくる平たい顔族ですね。
他のカエルと比べると平たい顔かもしれませんが、フクラガエルの中では特に平たい顔はしていないと思います。
Blaasop は、前にも書きましたが『フグ』です。
Mozambique Rain Frog は、標本の採取地からついた名前です。
和名はモザンビークフクラガエルが定着しているので、そのまま使いたいと思います。
モザンビークフクラガエルの基準標本
生き物の名前(学名)は、標本につけられます*。この名前を担っている標本をタイプ標本(担名タイプ)といいます。
Breviceps mossambicus という名前を担っている標本(ここではシンタイプ)は3点あります。
3点ともベルリン自然史博物館(元・フンボルト大学動物学博物館)の標本番号 ZMB 3554として収納されています。
基準産地(タイプ標本が取られた場所)は、記載論文にある通り『モザンビーク島(Insula Mossambique)』です。
*学名と標本についてはこのページを参照してください
モザンビークフクラガエルの特徴
南アフリカのモザンビークフクラガエルは真のモザンビークフクラではない
さて、ここからが本題です。
実は、南アフリカ共和国ではモザンビークフクラガエルではないカエルがモザンビークフクラとして認識されている可能性が非常に高いです。
そして、日本に輸入されているモザンビークフクラはおそらく本物のモザンビークフクラガエルです。
どういうことでしょう?
まず輸入されているモザンビークフクラガエルが本物という根拠ですが、図鑑 Frogs of Southern Africa の127ページに、基準産地であるモザンビーク島のモザンビークフクラガエルの写真があります(著作権の都合上載せられません…)。
基準産地の個体なので、この写真の個体は間違いなくモザンビークフクラガエルです。
日本に輸入されているモザンビークフクラガエルは、この写真とそっくりです。
このため、日本に入ってくるモザンビークフクラガエルは、おそらく本物です(実際はちゃんと形態を見るかDNAを見ないと断定はできませんが)。
一方で、南アフリカ共和国でモザンビークフクラガエルと言われているカエルは、色彩や外部形態、皮膚の様子などが全然違います。
南アフリカでモザンビークフクラガエルといわれているカエルはカラーバリエーションが豊富ですが(⬇️)、どれも基準産地の個体や日本に入ってくる個体の色とはぜんぜん似ていません。
僕はこのカエルをモザンビークフクラガエルではなく、フクラガエルの未記載種(名前がついていない種類)と確信しています。
砂地に住んでいるので “Sandy Soil”と仮称で呼んでいます。
下の Sandy Soil は僕が南アフリカ西部の ソドワナ ベイ という街でとった個体ですが、モザンビークフクラガエルとは似ても似つきません。
しかし Frogs of Southern Africa では、ソドワナ ベイから90 km北のモザンビークとの国境に位置するテムべ自然保護区で採取された上の写真と似た模様の個体がモザンビークフクラガエルのカラーバリエーションとして紹介されています。(お見せできなくて残念!)
おいおい、ありえないでしょ。ってなかんじです。
モザンビークフクラガエルの特徴と Sandy Soil との違い
まず、(真の)モザンビークフクラガエルの形(形態)の特徴は、Petersの記載論文だと以下の通りです。
- 背中は茶色がかった錆び色
- 側面は黄土色で黒い斑点がある
- 黄色がかった背中線がある
- 目の下に黒い帯模様がある
- 腹部は白で少し汚れている(マダラ模様が入るという意味か?)
この記述がモザンビークフクラガエルの基準となります(ただ色はあんまりカエルの種分類には使えないんだよな〜)。
日本に輸入されている典型的なモザンビークでは(⬇️)、背中線以外は上の特徴におよそ当てはまっているかなと思います。
具体的には、背中はこげ茶色、側面は黄土色ではないけど茶色、目の下の黒い帯模様、腹部は白くてマダラ模様(大理石のような模様)が弱く入る。
付け加えるなら、目の後ろは黄色から濃いオレンジ色といったところでしょうか。
ただ、この強いオレンジ色はある個体とない個体が同じ土地にいるか(種内バリエーション)、地域ごとのカラーバリエーションらしく、図鑑にのっている基準産地モザンビークフクラガエルはもっと黄土色に近い色をしています。
また、2つ下の写真のように背中がこげ茶色ではないカラーパターンもあり、モザンビークフクラガエルの中でもかなり色彩には変異があるようです。
背中線に関しては、下のモザンビークのカラーバリエーションと思われる個体には薄いけどあります。
なお、背中線は多くのカエル種であったりなかったりするので、あまり気にしなくてもいいと思います。(図鑑の写真では基準産地のモザンビーク島の個体にはないようです)
大きさについては、Frogs of Southern Africa によれば最大で 52 mm。
オス・メスの平均がそれぞれ 42・32 mmとなっています。(Sandy Soilもモザンビークに含めている図鑑なので、どんな根拠の数字かわかりませんが、Sandy Soilはもっと小さいので、おおよそ間違っていない数字だという印象です)
南アフリカでモザンビークフクラガエルと言われているカエル(Sandy Soil)は、これより一回り小さく、また、模様のパターンもモザンビークとは大きく異なり、背中線に沿って左右対称に不定形の模様が入っています。
真のモザンビークフクラガエルとSandy Soilの決定的な違いは、腹の横側から背中にかけての白い顆粒模様です。
この白い顆粒模様は、アメルクラガエルの種小名 adspersus (撒き散らす)の元になったと思われるもので、他複数のフクラガエル種にも見られる特徴です。
Sandy Soil にはこの模様がかなり目立ちますが、モザンビークフクラガエルにはこの顆粒がごくわずかにしかありません。
もう一つ、真のモザンビークフクラガエルと Sandy Soil の違いをあげると、体に対する頭の大きさがモザンビークフクラガエルの方が小さいように見えることと、頭に対する目の大きさがモザンビークフクラガエルの方が小さく見えることです。
ちゃんと標本のサイズを測ってみないといけませんが、写真からでもなんとなくわかるのではないでしょうか。
このように、真のモザンビークフクラガエルと、南アフリカでモザンビークフクラガエルといわれているカエル(Sandy Soil)には大きな違いがあります。
むしろ、素人目でも同種とは思えない程違うので、どうしてこうなったのか全くわかりません。
いずれにしても、南アフリカ共和国でモザンビークフクラガエルといわれているカエルは未記載種であり、同国内にはモザンビークフクラガエルは分布していないのが現実でしょう。
Wikipediaの間違い
質問者さまからいただいた Wikipediaのモザンビークフクラガエルの説明では、
- 背面は灰褐色で黒っぽい斑点がある
- 眼と前脚には暗色の筋があり、鼓膜の上を通る
- 腹部は白色で暗色斑があり
- 雄では喉が褐色
とあります。解説すると、
- おそらくSandy Soil の特徴で、モザンビークフクラガエルの特徴ではない(モザンビークの背中に斑点はない)
- 目の下の暗色の筋はほとんどのフクラガエルにある。前足に黒い筋はモザンビークにもSandy Soilにもない。フクラガエルは基本的に鼓膜は見えない
- これはモザンビークと合う特徴だが、他のフクラガエルでもおなじような模様はある。(ただしこの模様かつ、お腹がつるつるしてればモザンビークの特徴なのかもしれない⬇️)
- メスの喉が褐色のこともある(上写真)
ということで、Wikipediaの説明は、ほぼ正確ではないということになりますね。
ただ残念ながらこれは図鑑・Frogs of Southern Afirica の説明ともよく似てるんですよ。
Wikipedia で引用されている文献は Mr. Breviceps の Minter 先生や Du Preez 先生ら、南アフリカの人が書いたものなので、多分に Sandy Soil の説明が混ざっているようです。
本物のモザンビークフクラガエルと Sandy Soil の両方を見ている Minter 先生にしては迂闊だなあと思いますが…、思い込みとは怖いということでしょうか。
さて、さらにいうと Wikipedia でモザンビークフクラガエルとして紹介されているこの写真ですが…
これは明らかに未記載種で、Nielsenら(2018)の論文で sp. 5 と呼ばれている種です。(『sp. は species = 種』の略で、ななしの種 5 番みたいな意味)
僕も採取したことがありますが、2000 m 近い高地に住んでいるフクラガエルなので、僕は Highlander と仮称しています。(生き残れるのはただ1人!)
この写真の個体の撮影場所の シェバ山(Mount Sheba)は南アフリカでもかなりの高地で、比較的低地に住んでいるモザンビークがいるわけがないです。
なお、Wikipedia ではモザンビークフクラガエルが 1800 mまで生息すると書いていますが、これも他のフクラガエル種と混同された不正確な情報と思われます。
ついでにこの Highlander は Wikipedia の写真ぐらいの大きさで立派なアダルトです。元から小さいんですよ。
…さて以上から、Wikipedia の情報がいかに欺瞞に満ちているかおわかりになったと思います。(モザンビークについては南アフリカで混同されているので仕方ないところもありますが…)
ただ Wikipedia の知見からスタートして真偽を確かめて行くといった使い方をすれば Wikipedia は有用です。
でも、しっかりと裏を取る習慣がない人は、Wikipedia の情報は信じない・使わないことをお勧めします。
DNAデータが示すこと
Nielsenら(2018)の論文では、DNAデータではモザンビーク共和国中央部から北部で採取されたフクラガエルは、モザンビークフクラガエルとして系統的に一つのグループとしてまとまります。
一方でモザンビークフクラガエルの分布地とされるモザンビーク共和国南部や南アフリカでは、モザンビークフクラガエルに対応するDNAを持ったフクラガエルが採取されていません。(Figure 2b)。
おそらく、これらの地域では Sandy Soil がモザンビークフクラガエルと混同されてきたものと思われます。
また、Sandy Soil は、 Nielsen(2018)で言うところの sp. 7 という未記載種に相当すると思われます。(FIgure 2a)
鳴き声
モザンビークフクラガエルの鳴き声は分かりません。ごめんなさい。
Frogs of Southern Afirica に “モザンビークフクラガエル” の鳴き声が収録されていますが、これはおそらくSandy Soil のものです。
日本で購入した個体が鳴いていたこともありますが録音しておらず、どんな鳴き声だったかも忘れてしまいました。
ただ、最も近い種のフィシューフクラガエルと鳴き声を比較した研究はあります [Channing & Minter (2004) A new rain frog from Tanzania (Microhylidae: Breviceps). African J. of Herp. 53: 147-154 ⬇️『他の種の分布』を参照してください]
繁殖時期と様式
モザンビークフクラガエルの繁殖期も、Sandy Soil と混同されている可能性があるのでよく分かりません。
Sandy Soil のものと思われる記述は『春から初夏の大雨のあと』とのことで、アメフクラガエルより1月ほど前倒しぐらいのようです。
また、モザンビークフクラガエルの基準産地から近いナンプラという街の年間降水量を見ると、10月終わりから11月にかけて雨季が始まるので、だいたいこの頃に繁殖を行うと考えていいと思います。
日本にモザンビークフクラガエルが輸入される時期も、アメフクラガエルと同じ11月なので本物のモザンビークフクラガエルもこの時期に繁殖のために地上に出てきていると思われます。
本物のモザンビーフクラガエルの産卵の様子や発生様式も明確に書かれた文献を知りません。
複数の文献で共通しているのは、メスが産卵場所の近くに残るということです。
これは、アメフクラガエルにも見られる特徴で、モザンビークにあってもおかしくない特徴です。
発生様式はアメフクラガエルやヤブフクラガエルなどと同様に陸上でオタマジャクシになるパターンだと思われます。
他の種との相違点など
図鑑 Frogs of Southern Afirica に モザンビークフクラガエルと他の種を見分けるの特徴が書いてありますが、ここでのモザンビークは Sandy Soil である可能性が高いので、ここではあまり触れません。
ただ、この図鑑に書かれている『お腹がスベスベで大理石模様』というのは、本物のモザンビークフクラガエルと一致する(⬆️写真)ので、これは信じてもいいかもしれません。
他に確実な特徴といえば、モザンビークのそっくりさん・フィシューフクラガエルの記載論文 [Channing & Minter (2004) ] に書かれている『指の長さと足のイボ』です。
具体的には、
『手の3番目の指の長さが目の間隔よりも長いのがフィシュー。同じ指の長さが目の間隔と同じか短いのがモザンビーク』
『中足骨部分の結節(イボ)がひとつながりになっているのがフィシュー。結節の間にシワがあるのがモザンビーク』
というものです。
こんな細かい形態形質、標本しっかりみないとわからないですわー。
これら以外の生態学的特徴の情報もほとんどないか、あっても根拠が貧弱です。このため本ブログでは特に説明しません。
生息地と分布域
分布域と生息域
モザンビーフクラガエルの分布
図鑑・Field Guide to the Frogs & Other Amphibians of Africa によれば、モザンビークフクラガエルの分布は、
「タンザニア北東部から南アフリカの東ケープ州まで。生息地:海抜ゼロメートル地帯から高地斜面までの草原および森林サバンナ」
となっています。IUCN Red List でも、これと同様の分布が示されています(⬇️)。
ただ IUCN Red List の推定は、細かい標本収集とDNA 情報をくみあわせた研究から(正確ではないので)再考すべきと指摘されています [Nielsenら(2017) Zookeys 979: 133-160]。
IUCN Red List 自体 、タンザニア北部のモザンビークフクラガエルの記録はフィシューフクラガエルと取り違えられていた可能性があると述べています。 [Channing & Minter (2004) を参照したと思われます]
また、Frogs of Southern Afirica ではモザンビークフクラガエルの分布の北限はタンザニア南部となっており、タンザニア北部まで分布するという上記の資料とは一致しません。
一方で AmphibiaWeb では、タンザニアをさらに超えてケニアでの観察記録があるとしています。
このようにモザンビークフクラガエルの分布の北限については様々な説があり、どれが正しいのはどれかは分かりません。
確実なことといえば、モザンビーク北部のペンバという街付近(⬆️)で DNA レベルで確実にモザンビークフクラガエルであることが明らかな個体が採取されています [Nielsenら(2018)Figure 2b]。
また、 Channing & Minter (2004) では、タンザニアの Utengule という街 (マラウィ湖の北側でフィシューフクラガエルの分布地に近い)で採取された個体のDNAを調べてこれを本物のモンビークフクラガエルとしています。
これより北では DNA 情報で同定されたモザンビークフクラガエルは見つかっていません。
このため『モザンビークフクラガエルの分布の確実な北限は、海沿いではモザンビーク北部まで内陸部ではタンザニアのマラウィ湖の北側まで』
というぐらいの表現が正しいと思います。
次に分布の南限ですが、先ほども指摘したように南アフリカ共和国にはモザンビークフクラガエルはおそらく生息していません。
このため、モザンビークフクラガエルの分布の南限はもっと北になります。
具体的にどこまでがモザンビークフクラガエルの分布域かは断定できませんが、モザンビークフクラガエルの分布は、東アフリカのサバナ気候の地域に限定されているように見えます。
この気候区分を考慮すると、モザンビークフクラガエルの分布の南限はモザンビークのベイラという街あたりではないかと考えます(根拠弱めの僕の推定です)。
いずれにしても正確なモザンビークフクラ(に限らずフクラガエル類全般)の分布は、DNAデータを使うか、ちゃんと種同定ができる人の情報に基づいて調査しないと正直わからないというのが現状ですね。
ただアフリカ中部の国は内戦などで治安が極めて悪い国が多いため調査が進まないのも仕方ないでしょう。
他の種の分布
モザンビークとパワーフクラガエル
モザンビークと、パワーフクラガエルは分布が隣接しており(⬆️)、IUCN のデータでは分布が一部重複していることになっています。
しかし、僕はこの二種の分布は重なっていないだろうと思っています。
というのも、やはり気候区分が根拠で、モザンビークフクラはサバナ気候、パワーフクラは温暖冬季小雨量気候に住み分けていると思えるからです。
マラウィ湖の南で両種の重複があることになっていますが、この地域の調査を願っています。
また時々モザンビークフクラガエルとパワーフクラガエルのハイブリッドのような個体の写真を見かけます。
これは楽天市場でモザンビークフクラガエルとして売られていた個体ですが、おそらくパワーフクラガエルか、ひょっとしたらアンゴラにいる正体不明の未記載種 [Nielsenら(2017)写真なし] だと思われます。
もしモザンビークとパワーの分布が重複しているならハイブリッドが可能性もあるかもしれません。
しかし、この2種は 1700 万年前に進化の系統が分かれており(⬇️)遺伝的に雑種ができるとは考えにくいです。
個人的にはパワーの色彩バリエーションだと思います。(DNAを調べれば一発なのですが…)
モザンビークとフィシューフクラガエル
上の分布図で、モザンビークフクラガエルはタンザニアの中央部でフィシューフクラガエルと分布が接しているように描かれています。
地理的には隣接しているかもしれませんが、両種の生息地は垂直方向(= 生息地の高さ)で明確に分かれています。
フィシューフクラガエルは、タンザニア中央高地(イリンガからンジョンベまで:ウデューングワ山脈とヌジョンベ山脈)の狭い地域にしか分布しません。
そしてフィシューフクラガエルは標高 1500 m 以上のみに生息しています。
基本的に低地に住んでいると思われるモザンビークフクラガエルとは、住んでいる高さが全く違うので、これら2つの種が自然界で出会うことはないでしょう。
またフィシューフクラガエルとモザンビークフクラガエルはふくらがえるの中では遺伝的に一番近い種類で、およそ 1000 万年前に進化的に分かれています(⬇️)。
もともと低地に住んでいた祖先から、山地の環境に適応したのがフィシューフクラガエルで、低地に居残ったのがモザンビークフクラガエルだと考えられます。(僕の推測ですが、たぶんあたっていると思います)
なお、お互いに外見は極めて似ており正確には鳴き声で判断しないといけないようです。
フィシューフクラガエルの鳴き声は、Channing and Howell (2006) によると『脈打つような警笛音』と表現されています。(モザンビークの鳴き声は多分 Sandy Soil のものなので不明です)
一方で、音声スペクトル(ここでは周波数を図で表したもの)を用いて、フィシューフクラガエルと本物のモザンビークフクラガエル [タンザニアの Utengule (フィシューフクラガエルの生息地に近い街)で採取された個体] の鳴き声を比べると、これらの種の鳴き声は全然違うことがわかります [Channing & Minter (2004)]。
保全状況
モザンビークフクラガエルは IUCN Red List において低危険種(Least Concern)にランクされています。
モザンビークフクラガエルと近い仲間
Nielsenら(2018)のDNAデータに基づく研究では、モザンビークフクラガエルはフィシューフクラガエルと一番近い仲間になります。
上で書いたように、この2種類は鳴き声以外は非常に似ています。
ただ生活場所は大きく異なり、フィシューフクラガエルは 1500 m 以上の高地に生息します。
おそらく 1000 万年前に存在した共通の祖先から分かれ、高所に適応したのがフィシューフクラガエルで低地に住み続けたのがモザンビークフクラガエルだと思われます。
モザンビークフクラガエルとフィシューフクラガエルと近い現生のフクラガエルはアメフクラガエルです。
パワーフクラガエルとモザンビークフクラガエルは系統的にはかなり遠く、およそ1700万年前に進化の道筋が分かれたと推定されています。
まとめ
この記事ではモザンビークフクラガエルについて解説しました。
相変わらず、Web のデータは信用できないという内容が多いですが、特に『モザンビーククラガエルについてはプロの研究者達ですら長い間まちがって認識していた』という面倒な歴史があります。
でもこの記事を読んでいただいた方は、モザンビークフクラガエルについては間違いない情報が得られたはずです。
また、今回は初めてリクエストをいただいたテーマで書いてみました。
リクエストをいただくとやる気が出ますので、フクラガエルについて知りたいことがあれば、ぜひ問い合わせ欄からメールをください!
このブログでは引き続きフクラガエルの情報を発信していきます。
次の記事もご期待ください!