ネットで怖い顔した黒いフクラガエルっぽい生き物を見たんだけど…あれは何かな?
世界一不機嫌なカエルってネットで見たんだけどこれフクラガエルっぽくない?
それは多分ヤミフクラガエル(Breviceps fuscus Hewitt, 1925)のことでしょう
こんにちは。ふくら博士(自称)です。
ネットで怒った顔をした黒いカエルを見たことがあるかもしれません。
世界一不機嫌なカエルとか、めちゃめちゃグロテスクな生き物などとラベルを貼られていることが多いですが、それは「ヤミフクラガエル」です。
写真を見ればなぜそう言われているのか納得できると思います。(下のネット上の写真がわかりやすい。。)
フクラガエル図鑑6種類目は、不機嫌とかグロと言われている割に海外ではファンの多いヤミフクラガエルについて解説します。
ではいってみましょう!
多分サバクフクラとアメフクラの次に有名なフクラガエル
ヤミフクラガエルといえば、この写真が有名です。
このへの字に口を曲げて睨んでいるような目つきから、世界一不機嫌なカエルと言われていたりします。
また、奇怪な(Bizzare)カエルとか、不気味なカエルとか、世界一キモカワいいカエルとか言われたりもします。
世界一可愛いカエルと世界一不機嫌なカエルが揃っているフクラガエルってすごいですよね。
また、このカエルを好きな人が多く、YouTube に動画があったり、自分でカレンダーを作っちゃった人もいるようです。
(なお、この動画の 1:03 から登場するカエルはヤミフクラガエルではなく、ケープオオフクラガエルです)
このカレンダーの7月(JUL)の写真も有名ですが、このツノが生えた宇宙人みたいなヤミフクラガエルがいるわけではありません。これはヤミフクラ画像の頭の部分を削った雑コラです。
いずれにしても、このカエル離れした体色、目つきの悪さ、すごいへの字口という非常に特徴的なルックスに惹かれる人がとても多いみたいですね。
僕もサバクフクラの次に見てみたかったフクラガエルです。
ヤミフクラガエルの名前
学名
ヤミフクラガエルの学名は
Breviceps fuscus
です。
属名の Breviceps のとは、『短い頭』というラテン語です。【フクラガエルの生物学】を参照してください。
fuscus という種小名はラテン語です。
英語だと、dark、black、brown 、つまり『暗い、闇、黒、茶』といった意味です。
ヤミフクラガエルの色彩からついた名前であることは間違い無いでしょう。
*種小名については【フクラガエル全20種類の名前リスト】をご参照ください
命名者はアルバニー博物館(グラハムズタウン・南アフリカ)の元館長・ John Hewitttonで、”Hewitt, J. 1925. Descriptions of three new toads belonging to the genus Breviceps Merrem. (Annals of the Natal Museum 5: 189–194)”と言う論文で記載されました。
英語名と和名
ヤミフクラガエルの英語名は、
Brown Short-headed Frog
Plain Rain Frog
Black Rain Frog
などです。
一番最初の Short-headは、属名(Breviceps)をそのまま英語に直した名前です。茶色い短頭ガエルという意味ですね。
Plain rain frog は平原フクラガエルという意味です。
Black Rain Frogは文字通りクロフクラガエルという意味です。この名前が一番通りが良いようです。日本語でもクロフクラガエルを使っている方がおられますね。
ただ、学名の fuscus には黒や茶という意味もありますが、どっちかというと暗いとか闇というニュアンスが強いです。
また、実際のヤミフクラガエルの色は、ちょっと表現が難しいのですが単純な黒というより濃い灰色…いわば闇色といった色です。
また、ちょっと悪っぽい特徴的なルックスから、私は「闇」を連想します。
このため、本ブログではヤミフクラガエルという和名を使用し、かつ使用を推奨させていただきます。
ぜひヤミフクラガエルという名前を使ってこの魅力的なカエルを広く知らしめてください(笑)
ヤミフクラガエルの基準標本
生き物の名前(学名)は、標本につけられます*。この名前を担っている標本をタイプ標本(担名タイプ)といいます。
Breviceps fuscus という名前を担っている標本はポートエリザベス博物館の標本 PEM A4826(レクトタイプ)です。
もともとはシンタイプ(担名タイプの一つ)でしたが今はパラレクトタイプ(タイプシリーズだが担名タイプではない)になっている標本(PEM A4826)もあります。
*標本についてはこのページを参照してください
ヤミフクラガエルガエルの特徴
色と形
ヤミフクラガエルの大きさはオスでおおよそ 35 mm、メスは 40 mm 程度です。
Frogs of Southern Afirica によれば最大サイズは 51 mm とのこと。
ヤミフクラガエルの特徴は、なんといってもその体色です。
紫がかった黒から黒に近いこげ茶色の体色で、他のフクラガエルには似たような体色の種類はいません。
目も特徴的で、虹彩が見にくく(ちゃんとあります)、超黒目です。
さらに、口の形がへの字型をしています。
この黒目とへの字口が、世界一不機嫌と言われるヤミフクラガエルの独特な表情を作り出しています。(この写真はあまり不機嫌そうに見えませんね)
黒目・への字口・手足を突っ張って威嚇する
その他のヤミフクラガエルの特徴は、皮膚がすごく硬いことです。
背中はイボがたくさんあり、ザラザラしていて、かなり硬い。これも他のフクラガエルには無い特徴です。
また、膨らんだ時の(威嚇の)ポーズが他のフクラガエルとは違います。
他のフクラガエルは膨らむときに、手足を畳みますが、なぜかヤミフクラガエルは手足をピーンと伸ばして固まります。
手足ピーンになんの利点があるかはわかりませんが、狭い穴などに隠れていた際には、手足を突っ張るとそこから穿り出されにくい、なんていうことがあるのかもしれません(僕の妄想です)
ザラザラ感は弱いが硬い
ヤミフクラガエルのお腹は、紫〜茶色がかった灰色です。
イボイボはないですが、やはり少し硬い。
他の多くのフクラガエルの皮膚がスベスベで柔らかいのに比べるとかなり独特です。
イチゴフクラガエルも少し皮膚が硬いですが、ヤミフクラほどではありません。
鳴き声
ヤミフクラガエルの鳴き声は、短く脈打つ低音のホイッスル音が連続したもの、とされています。
しかし、僕にはかなり高音に聞こえます。
クワッ・クワッ・クワッ・クワッ・クワッという風に聞こえます。アメフクラやイチゴフクラと似てますが、それより高音で透き通った鳴き声です。
僕は録音しなかったので興味がある方は、Frogs of Southern Afirica で聞いてみてください。(この図鑑を購入すると、ほぼ全種のふくらがえるの鳴き声が聞けます!)
同図鑑によれば、オスは昼夜を問わず、浅い巣穴の中から、または地表の隠れた場所や地表から 30 cm の高さまでの高いとまり木から鳴く。とされています。
僕がみた時は、昼間で雨が降っていない時に鳴いていました(ただし数日前には雨が降った)。
晴れた時でも鳴いていましたが、数時間すると鳴き声がなくなってしまったので、1日の中でも鳴く時間は限られているように思えます。
また、とまり木から鳴く、というのは眉唾ものですが、本当なら是非みてみたいです。
僕が見たときはすべての個体が、地表から少し潜ったところから鳴いていました。
繁殖時期と様式
ヤミフクラガエルの繁殖時期は春〜夏で、10 月から始まり少なくとも 2 月まで続くと書かれています。(Channing, A. (2001). Amphibians of Central and Southern Africa. および Branch, W. R. and Hanekom, N. (1987). The herpetofauna of the Tsiktsikamma Coastal and Forest National Parks. Koedoe, 30, 49-60 )
少なくとも、10月にはオスが鳴いていたので、南アフリカの春の時期には生殖行動をしています。
アメフクラガエルと同様に、地中に巣を作って産卵します。
巣の深さは 3 ~ 4 cm (15 cm の観察もある)と記述されています (Channing 2001)。
他のフクラガエルと同じく、抱接の際は糊を出してオスとメスが接着します。
オスの糊だけで接着は可能です。しかしメスも糊を出す能力は持っていて、実際の抱接にはオスだけが出しているのか、オス・メス両方が出しているのかは謎のままです。
抱接しているペアは見つからなかったので、メスの上にオスを置いて撮った写真
直径 8 mm の卵が約 40 個生まれます。
オスは巣の中で、直接発生する子ガエルが卵から孵化するまで守り続けるという記述があります (Channing 2001; Minter, L. et al. (2004). Breviceps fuscus. In: IUCN 2012. IUCN Red List of Threatened Species)。
しかし、直接発生するというのはおそらく正しくなく、アメフクラガエルと同様に、オタマジャクシが孵化すると思われます。
生息地と分布域
分布域と生息地
ヤミクラガエルの分布は南アフリカの南西部に限られています。
具体的には、南ケープ褶曲山脈(Southern Cape fold mountains)、その中でもスウェレンダム近郊のランゲバーグ山脈の南斜面からジョージ近郊のオウテニカ山脈までのみに分布します。
By Oggmus – CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=40624957
By Oggmus – CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Western_Cape_Topology.jpg
分布域はIUCN Red List に従った
生息地
ヤミフクラガエルは、もともと南アフリカの南海岸のクニスナ(Knysna)という街で採取されました(Hewett 1925)
ヤミフクラガエルは海岸沿いの海抜 0 メートルから山地の 1000 メートルを少し超えるところまで生息します。
山の斜面、高原の森林、フィンボス(灌木林)に生息し、時に人家の庭園でも見られるとされています (Channing 2001; Minter et al. 2004など)。
ラゲンバーグ山脈では(スウェレンダム付近)、ヤミフクラガエルはイチゴフクラガエルと同所的に分布しています。
数百メートルしか離れていないところで、この2種類は鳴いていましたが、全く同じところにはいませんでした。
私が観察した限りでは、ヤミフクラガエルは雑木林にいて土が柔らかいところに住んでいて、イチゴフクラガエルは山の斜面で土が固く、落ち葉などがあまり堆積していない場所でよく見つかりました。
少なくともこの2種は同じ場所に生息していますが、住む場所は少し性質が違っているように思えます。
また、ヤミフクラガエルは見つけるのが非常に困難です。
というのも、落ち葉の下にさらに少し穴を掘って隠れているからです。
最初はいくら鳴き声がするところを探しても見つからなかったのですが、土を少し掘れば鳴いているところに確かにいることがわかり、ようやく発見ができました。
ただ、絶対ここで鳴いているはずなのに土を掘っても見つからないということも多く、かなり発見難易度の高いフクラガエルといえます。
声はすれども姿は見えず
オスは鳴いてくれるのでまだ見つけられますが、鳴かないメスの探索は本当に難しい。
たまたま大きな石をどけた時に一頭だけ見つけることができました。
保全状況
ヤミフクラガエルは IUCN Red List では低危険種(Least Concern)にランクされています。
南アフリカ国内でも絶滅の危機にはないとされています。
ヤミフクラガエルと近い仲間
Nielsenら(2018)のDNAデータに基づく研究では、ヤミフクラガエルはヤミフクラガエルと一番近い仲間です。
イチゴフクラガエルのぺーじでも書きましたが、ヤミフクラガエルとイチゴフクラガエルの進化系統はおよそ750 万年前に分かれたと推定されています。
おそらくこの2つの種類の共通の祖先は、ラゲンバーグ山脈のどこかに生息していて、その祖先の集団が西側と東側に分断され(地理的に行き来できなくなって)、2つの別の種になったと考えられます。
その後、2つの種の分布が広がり、現在ではラゲンバーグ山脈の中西部で同所的に生息するようになったと考えられます。(僕の仮説です。多分あってると思います。)
ヤミゴフクラガエルとイチゴフクラガエルが一番近い仲間になっている
まとめ
この記事ではヤミガエルについて解説しました。
日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、世界的にはファンが多いフクラガエルです。
ネットで見て気になっていた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ただ、他のフクラガエルに比べて弱いようで、3日間キープしていただけで死んでしまいました。
イチゴフクラガエルと同じ森に住んでいますが、上で書いたように見つけるのはヤミフクラガエルの方がずっと難しいです。
ただ、一度は見る価値のあるカエルだと思いますよ。
もし、このカエルを見るなら、スウェレンダム近くの山か(イチゴフクラガエルも見られる)、クニスナ近辺の自然保護区に行かれるのがよいと思います。
このブログでは引き続きフクラガエルの情報を発信していきます。
次の記事もご期待ください!