ナマカフクラガエルってどんなカエルだろう?
ナマカフクラガエルって世界一可愛いっていわれてるけど?
はい。ナマカフクラガエルはサバクフクラガエルと勘違いされて、世界一可愛いと言わてきたカエルさんです。
あと、ナマカではなくナマクワフクラガエルと呼ぶのを推奨します。
こんにちは。南アフリカでサバクフクラガエルもナマクワフクラガエルも見てきた、ふくら博士(自称)です。
前回の記事“サバクフクラガエル【フクラガエル図鑑】”で、世界一可愛いカエル論争(?)に終止符を打たせていただきました。
今回は、『じゃない方』の
ナマクワフクラガエル (Breviceps namaquensis Power, 1926)
について解説します。
この記事を読めばフクラガエルについてまた一つ知識が増えますよ。
ではいってみましょう!
ナマカワフクラガエルじゃなくて【ナマクワフクラガエル】がいい理由(きまりはないけど)
なんでナマカじゃなくてナマクワフクラガエルなの?
このブログでは、世間で使われている和名の『ナマカフクラガエル』ではなく『ナマクワフクラガエル』を採用しています。
理由を説明します。
ナマカフクラガエルは、Breviceps namaquensis の 英名 Namaqua Rain Frogを日本訳したものです。
Namaquaは、このカエルの生息地、南アフリカからナミビアの沿岸部の地域の名前・Namaqualand から取られています。
つまり、“ナマクワ地方のフクラガエル”といった意味です。
より深掘りすると Namaqua の Nama (ナマ)は、南アフリカ・ナミビア・ボツワナに暮らしていた(る)ナマ族のことです。
そして、qua (クワ)はナマ語(の属するコエコエ語族)の接尾辞で、『people』『place of』『a community lived in that area』といった意味を付加します。
そんなわけで、Namaqua を意訳すると『ナマ族の人々』『ナマ語の人々の土地』ぐらいの意味になります。
つまり Namaqualand は、ナマ族の人々の(住んでいた)土地という意味です。
こんな意味があるので『ナマカ』と言ってしまうと、発音も違うし、本来の意味がなくなってしまって印象がよろしくないなーと思います。
また、ナマクワフクラガエルは2013 年まで和名がありませんでした。
その年にYouTubeにアップされた例の動画を某TVメディアが使う時に、動画の概要に書かれていた、Breviceps namaquensis の和名をとある研究者に尋ねました。
その研究者さんは、namaquensis は、南アフリカの『ナマクワランド』に由来するので『ナマクワフクラガエル』と答えたのですが、TV作成会社の担当さんが聞き間違えたらしく『ナマカフクラガエル』と放送されたため、日本ではナマカフクラガエルという名前が定着してしまったようです。
つまり、そもそもナマカフクラガエルという和名は間違いから始まっているんです。
このため、和名の使用には特に決まりがあるわけではありませんが、本ブログでは B. namaquensis の和名として、『ナマカ』ではなく『ナマクワフクラガエル』を使用します。
また、その使用を強く推奨します!
ぜひ『ナマクワフクラガエル』とお使いください。どうぞよろしくお願いします。
あ、ナマクワカメレオンとかも同じ由来の名前ですね。
学名
すでに書きましたが、
サバクフクラガエルの学名は
Breviceps namaquensis
です。
属名の Breviceps は、『短い頭』という意味です。(【フクラガエルの生物学】を参照してください)
種小名の namaquensis は、すでに書いた通り『ナマクワ(地方)の』という意味です。
(*種小名については【フクラガエル全20種類の名前リスト】をご参照ください)
ナマクワフクラガエルは、1926年に、”A monographic revision of the genus Breviceps, with distribution records and descriptions of new species (Annals of the South African Museum 20: 451–471)”という論文で記載されました。
命名者(⬇️)は、John Hyacinth Power(ジョーン・ヒアシンス・パワー)。南アフリカの著名な爬虫両生類研究者にして、キンバリーのマクレガー博物館の元館長です。
なお、パワーフクラガエル(Breviceps poweri)の名前は、この方に献名されたものです。
ナマクワフラガエルの基準標本
生き物の名前(学名)は、標本につけられます*。この名前を担っている標本をタイプ標本(担名タイプ)といいます。
*学名と標本についてはこのページを参照してください
Breviceps namaquensis という名前を担っている標本(ここではシンタイプ*)は2つ。
ともに南アフリカ博物館(South African Museum)所蔵で、標本番号は
- SAM ZR2144
- SAM 12210
です。
これらの標本の採取地(基準産地)は南アフリカ共和国・北ケープ州・ポートノロス(Port Nolloth)です。
ナマクワフクラガエルの特徴
形と色
ナマクワフクラガエルは多くのフクラガエルと同じで、ずんぐりしていて手足が短いです。
Powerの原記載によると、他のフクラガエルと比べるとややスレンダーで、吻(口元から鼻先まで)が少し長めという傾向があるとのことですが、あまりそのような印象は受けません。Powerの見た標本が痩せていたのかもしれません。
ナマクワフクラガエルは目がとても大きいことが特徴です。
目の虹彩は銀色〜薄茶色、濃い赤の個体まで様々です。(僕は銀色の個体しか見てないです)
なんというか徹夜明けのように『目が血走っている』印象が強いカエルさんです。ネットでも多くの写真でガンギマリ状態w
図鑑 “Frogs of Southern Afirica” では、大きさは最大で 45 mm。平均でメスが 37 mm、オスが 27 mm 。
“Field Guide to the Frogs & other Amphibians of Africa“では、オス32mm メス 45mmとなっていて、この二つの図鑑で大きな違いはありません。
背中は滑らかですが、小さめのつぶつぶ(顆粒)があります。
背中の色は、薄い灰色から明るい黄色が地になっています。(僕は灰色の個体しか見ていません)。
そこに太い黒〜こげ茶色の帯が縦横方向に不規則に入ります。
目の下に黒い帯模様があります。(これがサバクフクラクラガエルとの明確な違いです)
お腹は滑らかで、白色。皮膚が薄く半透明になっていることもあります。
フクラガエルにしては珍しく足指に水かきがあります。
指が水かきでつながっているので足はパドル状になっています。
鼓膜は見えません。
餌
ナマクワフクラガエルの餌について言及している文献は僕が探した範囲では見つかりませんでした。
ネットでは無脊椎動物を食べると書いているのがありましたが、まあそりゃそうでしょう。
他のフクラガエルと同じく、小さな昆虫や多足類を食べていると思われます。
オス・メスの区別
図鑑”Frogs of Southern Afirica“では、 オスの喉部がメスより暗い色をしているとされています。
しかし、⬆️の仰向けの個体はオスですが、喉は真っ白です。というわけで、この喉が暗い色というのは信用できません。
基本的には大きさで見分けることになります。
他の種類との区別
ナマクワフクラガエルは目がとても大きいことが特徴です。また、水かきを持っています。(Wikipediaでは水かきはないと書かれていますが、誤情報です)
これらの特徴で、ブランキーフクラガエル(B. branchi)と、サバクフクラガエル(B. macrops) 以外のフクラガエルとは簡単に区別できます。
Wikipediaでは『サバクフクラガエルとほとんど区別がつかない』と書かれていますが、これも嘘ですね。サバクフクラガエルとは似てるっちゃ似てますが、間違えるほどじゃないです。見ればすぐにわかります。
具体的には、目の下の黒い帯模様があればナマクワフクラガエルで、なければサバククフクラガエルです。
他にも、サバクフクラガエルの方がお肌がスベスベですし、背中の地の色(サバクは光沢感のある白〜金灰色、ナマクワはマットな濃い灰色〜薄茶や黄色)や模様のパターンもだいぶ違います(サバクは虫食いで、ナマクワは帯状)。
手足もサバクの方が短い印象です。
あ、あとはサバクは目が血走っていません。。
では次にいきまして。
ブランキーフクラガエルとはめちゃめちゃ似ているようです。(僕はブランキーを直接見ていないので断定できません。というか、昨年までに1頭しか見つかっていなかった超幻のフクラですから…)
文献上のブランキーフクラガエル(B. branchi)とナマクワフクラガエルの区別の仕方ですが、、、
まず、ブランキーフクラガエルの記載者のChanning 先生が “Field Guide to the Frogs & other Amphibians of Africa“の中で、
“distinguished by large number of very small tubercles under fingers and toes” 『(ブランキーフクラガエルには)手の指と足の指の下に小さな円形のイボが多数あるので(ナマクワフクラガエルと)区別される』とされていますが、、、
うーん、ナマクワフクラガエルの手足の指にもイボはあるんだよなぁ。
Du Preez先生は”Frogs of Southern Afirica“で、 『ブランキーフクラガエルは手の4番目の指の下にたくさんイボがある(のでナマクワと区別できる)』と書いているのですが、
ナマクワフクラガエルの4番目の指の下にも結構イボはあるんですよねぇ…😅
というか、ブランキーフクラガエルの現記載論文を読んだら、足の4本目の指になってたので、Du Preez先生が間違ってました。
なお、原記載にも足の指の写真やスケッチはないので、この識別方法が正しいのかわかりません。
で、ブランキーフクラガエルには手の3本目の指の下にイボが24個もあるけど、ナマクワフクラガエルだと10こ以下だそうです。
上の写真では、3本目の指には明らかにイボはありますが、いくつあるかちょっとわかりませんね…。
なので、僕にはブランキーとナマクワフクラガエルの正確な見極め方はわかりません。ごめんなさい。
ブランキーフクラガエルの標本をちゃんと見ないといけません。
というかDNAを調べるのが一番てっとり早いですね。
あと Endangered Wildlife Trust さんの写真のブランキー、ほんとにブランキーなんですかね??これナマクワじゃないっすか??
Mr. フクラガエル・Minter 先生が同定してるはずだから大丈夫だと思うんですが…うーん。
活動時期と鳴き声
活動時期
図鑑”Frogs of Southern Afirica“によると、”Males call during and after good rains from winter to spring and sporadically during autumn and early summer .”
つまり『冬から春(6〜10月頃)にかけての雨の多い時期と雨が降った後、および秋から初夏(<意味不明ですが、おそらく春から初夏、もしくは秋から初冬の書き間違い)にかけて散発的に鳴く』。とされています。
ちなみに、ナマクワランドの雨季は 5〜8 月ごろで、アメフクラガエルが分布する地域(11月〜1月)とは逆になっています。
なおナマクワランドは、雨季の間のに『ワイルドフラワー』と呼ばれるひなぎくの仲間が一斉に咲き乱れ、年に数週間(8月から10月初旬)だけ、お花畑が出現することでとても有名です。
ナマクワフクラガエルの活動が活発になるのはちょうどこの時期ですね。
残念ながら、僕はまだこのお花畑を見たことがありません。
僕がナマクワフクラガエルと出会ったのは11月なかばです。めっちゃ鳴いていました。
鳴き声
すでに書いた通り、ナマクワフクラガエルは主に6〜10月の雨季に鳴きます。少なくとも僕は南アフリカの夏にあたる11月にも活発に活動して鳴いているところを聞いていますので、もう少し幅広い季節で鳴くと思われます。
“Field Guide to the Frogs & other Amphibians of Africa“によると、 『短く上昇する笛のような音で、1 秒に 2 回鳴く。 オスは植生の下に隠れながら鳴く』とあります。
“Frogs of Southern Afirica“よれば、『短く低音の笛のような音で、1 秒に 1 回の割合で繰り返される。2 匹のオスが一緒に鳴き、その後に別の 2 匹のオスが一緒に鳴くこともある』とのこと。
前者の『短く上昇する笛のような音』がより近い表現だと思います。鳴き声の間隔は1秒に1回が基本ですが、もっと短い間隔で連続して鳴くこともあります。
僕は録音しなかったので、”Frogs of Southern Afirica“で聴いていただければと思います。
なお、Wikipediaでは、イギリスの超有名新聞 Guardian がウェブサイトに載せた、例のサバクガエルの動画を引用して、
(ナマクワフクラガエルは)体を大きく膨らませてキーキーと鳴き声を出して、捕食者を撃退する防御機構を持っています。
と書かれていますが、これはサバクフクラガエルの解説記事にも書いたように、フクラガエルに限らず多くのカエルが発する危難音です。
また、フクラガエルでは余程のことがない限り、この危難音は出しません。このため、このWikipediaの説明はあまり正確ではないですね。
そもそもサバクとナマクワ間違ってますしね。(ファクトチェックしようよ、ガーディアンさん・・・)
繁殖生態
ナマクワフクラガエルの繁殖生態について信頼できる文献は見つかりませんでした。
おそらく今までに誰も観察したことはないと思われます。
Wikipedia では、アメフクラガエル の観察をまるでナマクワガエルで観察したように書いますが、おそらくこれで正しく、アメフクラガエルと似たものだろうと思われます。
繁殖期はMr. Breviceps の Minter 先生曰く『春』とのことで、分布地のナマクワランドの雨季ですね。
ただ、それ以外の季節にも鳴いているので、割と長い期間繁殖を行なっている可能性もあります。
分布域
ナマクワフクラガエルは、乾燥した砂地に住んでいます。
サバクフクラガエルも乾燥した砂地に住んでいますが、ナマクワフクラガエルは赤い砂地に住んでいる点で白い砂地に住んでいるサバクフクラガエルと違っています。
南北の分布域は、図鑑”Field Guide to the Frogs & other Amphibians of Africa“によると、
『ナミビアと南アフリカ国境のオレンジ川南から南アフリカのランゲバーンラグーン』まで(地図の⬇️青色の場所)となっています。
ナマクワフクラガエルは『ナマクワランドのカエル』という名前ではありますがナマクワランドのずっと南まで分布しています。
AmphibiaWeb もこの記述と同じ分布域を採用していますが、もっと南のメルクボスストラントでも目撃情報があるとしています。
実は、僕がナマクワフクラガエルを見つけたのも、まさにメルクボスストラントでした。このため、一般に知られているよりもナマクワガエルの分布は南方向に広いということになります。
メルクボスストラントはケープタウンの都心からからわずか 30 km・車で 30 分です。
会いに行くのが楽なカエルと言えるでしょう。
北側の分布限界はナミビアとの国境のオレンジ川までとなっています。
陸生のカエル(実は普通のカエルでも)川が分布制限になることは多いので、オレンジ川が分布限界であるというのは納得がいきます。
一方で、ナミビアの南までいるかもしれないとしているサイトもあります。
少なくともサバクフクラガエルはオレンジ川を越えてナミビアにも分布しているので、ナマクワフクラガエルの分布もこの川を越えられないという明確な証拠はありません。
実はナミビアの南アフリカとの国境の海岸線地域はダイヤモンドが産出するため、長いこと立ち入り禁止エリアに指定されていました。(ナミビアではダイヤモンド採掘が半国家事業となっていたので規制がかけられていました)
このため、この地域でのナマカフクラガエルの調査が十分に進んでおらず、本種がナミビアまで分布している可能性も残っています。
最近は観光誘致のために立ち入り禁止の規制が緩和されているようですので、いずれナマクワフクラガエルの分布の北限が更新されるかもしれません。
なお、近縁種のブランキーフクラガエルのことを考えると、ナマクワフクラガエルの分布はポートノロスの北 40 km のホルガット河までの可能性もあります。
ナマカフクラガエルの分布域はサバクフクラガエルの分布とかぶっていますが、サバクフクラガエルの分布が海から 10 km までに限られているのに対し、ナマカフクラガエルはもっと内陸の山岳地帯まで分布しています。
この内陸地帯は、多肉植物カルー植生(Succulent Karoo Biome)と言われるほとんどが多肉植物で形成されるこの地域独特の環境です。
この地域の降水量は年間 20 ~ 290 mm と非常に少なく、夏は気温が 40 ℃ を超えることも珍しくありません。
ナマクワフクラガエルもサバクフクラガエルと同じく乾燥に適応したフクラガエルです。
しかも、高温にはサバクフクラガエルよりも強いと思われます。
ナマクワフクラガエルの分布地は、年に数週間だけのお花畑や、多肉植物のホットスポットであるカルー地域など植物好きには最高の観光地です。
一度訪れてみてはいかがでしょうか。(僕もいずれお花畑を見に行こうと思っています)
保全状況
ナマクワフクラガエルは今のところ絶滅の恐れはなく、IUCN Red List においては低危険種(もしくは軽度懸念)(Least Consern)というランクにカテゴライズされています。
系統的位置と近縁種および種が分かれる可能性
Nielsenら(2018)の研究では、フクラガエル属は遺伝的に2つのグループ:『モザンビークフクラガエルグループ』と『ケープオオフクラガエルグループ』に分かれます。
ナマクワフクラガエルはケープオオフクラガエルグループに入ります。
このグループの中で、ナマクワフクラガエルはブランキーフクラガエルと最も近い仲間になる*ことがわかっています。
次に、ナマクワフクラガエルとブランキーフクラガエルの系統はサバクフクラガエルと近い仲間であり、この二つのグループはおよそ700万年前に別れたと推定されています。
面白いことに、ナマクワフクラガエルは北部集団(ポートノロスのサンプル)と南部集団(ランバーツベイというケープタウンから北に 250 km、ポートノロスから南に 400 km ほどの街のサンプル)の間で遺伝的にかなり分化しています。
この2つの集団はおよそ 300 万年に系統分岐したと推定されています。
これだけ別れた年代が古いとこれらの集団は将来の研究次第で2つの異なる種に分けられるようになるかもしれません。(もしそうなった場合は、ポートノロスの北部集団が B. namaquensis のままで、南部集団が新種として新しい学名が与えられることになります)
*ブランキーフクラガエルとナマクワフクラガエルが別れた年代は、ブランキーフクラガエルが分岐年代推定という解析には含まれていなかったのでわかりません。図では、便宜的にサバクフクラガエルとナマクワフクラガエルの分岐(およそ700万年)と、ナマクワフクラガエルの北部・南部集団の分岐年代(300万年前)のおよそ中間にしてあります。
まとめ
さて、ナマクワフクラガエルについて解説しましたが如何でしたでしょうか。
世界的にごちゃ混ぜにされているサバクフクラガエルとはかなり違っていることがお分かりいただけたかと思います。
一方で、ブランキーフクラガエルとは区別がしにくいです。というか、ブランキーフクラガエルは幻すぎて、実物が見られません。
この種についてはまた近いうちに解説記事を書きたいと思います。
当ブログでは、ますますディープなふくらがえるの情報を発信していきます。
では、次の記事をご期待ください!