アメフクラガエルのことがもっと知りたい
そんなあなたのために、アメフクラガエルについて解説します。
こんにちはふくら博士(自称)です。
僕はフクラガエルが好きすぎて、20年ほどフクラガエルの調査をしています。
このブログでは、おそらく日本で一番フクラガエルの勉強をしてきた僕が【フクラガエル図鑑】としてフクラガエル全種を解説する記事を書きます。
フクラガエル図鑑・記念すべき第一回はみなさん大好き
アメフクラガエル (Breviceps adspersus Peters, 1882)
です。
なお、海外の図鑑や最新の学術論文に基づいた記事なので、どの日本語のサイトよりも詳しくより正確(なハズ)です。(海外の図鑑もまあまあ間違ってますけどね・・・)
さらに、現地での体験談なども書いていきます。
この記事を読めば間違いなく今まで以上にアメフクラガエルに詳しくなれます。ではいってみましょう!
アメフクラガエルの名前
学名
アメフクラガエルの学名は
Breviceps adspersus
です。
属名の Breviceps のとは、『短い頭』というラテン語です。【フクラガエルの生物学】を参照してください。
adspersus という種小名*はラテン語で、意味は英語だと『sprinkled』。日本語で『まき散らされた』という意味です。スプリンクラーのスプリンクルです。【*種小名についてはフクラガエル全20種類の名前リストをご参照ください】
図鑑『中央と南部アフリカの両生類(Amphibians of Central and Southern Africa)』によると、この種小名は背中のまだら模様に由来するそうです。
一方で、図鑑『南部アフリカのカエル(Frogs of Southern Africa)』 では、背中の白い斑点に由来すると書かれています。
どちらが正しいのか、命名者(⬇️)に聞いてみないとわからないですが、sprinkledって、『まだら』というよりも『ふりかけた』というニュアンスなので、背中に点々とある白い斑点を指しての名前という方が自然な気がします。
なお adspersus というラテン語には『小雨』という意味もあるので、アメフクラガエルの名前の由来だったらかっこいいのですが、それは関係なさそう。
アメフクラガエルに名前をつけたのは Wilhelm Karl Hartwich Peters というドイツの動物学者で、『フリードリヒ ヴィルヘルム 4 世国王陛下の命令により1842 年から 1848 年にかけて行われたモザンビークへの学術旅行(1882)』という長〜いタイトルの本の中で、アメフクラガエルは(新種として)記載されました。
英語名など
アメフクラガエルの英語名はたくさんあります。
South African Short-head
Transvaal Blaasop
Transvaal Rain Frog
Blaasop
Bushveld Rain Frog
Common Rainfrog
Common Short-headed Frog
Peters’ Rain Frog
などです。
Short-headは、属名の意味をそのままつけた名前ですね。
Transvaalは、南アフリカの昔の州の名前で、現在のハウテン州・ムプラマンガ州・リンポポ州にあたります。このリンポポ州には広くアメフクラガエルが分布しているので、Transvaal のカエルという名前が多いようです。
Blaasopは、フグ(科の魚)という意味で、怒るとふくれるフクラガエルの特徴をよく表しています。
Rain frogは、『雨季が来て雨が降(り出しそうにな)ると地上に出てきて鳴き出す』という習性から名付けられたことは間違いないでしょう。しかし、欧米の人がそれを観察して Rain frog と名付けたというよりも、先住民が昔からその生態ゆえに雨をもたらすカエルと呼んでいたことに由来するようです。
例えば、ジンバブエの南東の言語であるカランガ語では、アメフクラガエルを雨を運んでくるカエルとして、敬意を評して “unocebeyi isele lendyebo” = 富をもたらすカエル、 “inkosazana” (= お姫様)と呼んでいるとのこと。
Bushveld については草原と訳して草原にすんでいるフクラガエルという意味だ、としているサイトがありました。
厳密にいうと、Bushveld は草原ではなく「草本の地表とまばらな木本植物が組み合わさっている」ことが特徴のサバンナ気候帯の代表的な植物群落のパターン(植生)の一つのようです。
草原(Glassland)よりは雨が多い地域の植生です。(このため木本の植物が生育できる)
和名
外国のカエルの和名は英語名を訳したものが多いのですが、アメフクラガエルは素直に英語名からはとられていません。
おそらく、アメガエルは、オーストラリアの Litoria 属にすでに当てられていたので他の名前にしないといけなかったものと思われます。
そこで Baloosap からフグガエル、Rain frogからアメの部分を取って、2つを足してアメフクラガエルにしたのではないかと推測します。
アメフクラガエルの基準標本について
生き物の名前(学名)は、標本につけられます。この名前を担っている標本をタイプ標本(担名タイプ)といいます。
学名と標本についてはこのページがわかりやすいかも
Breviceps adspersus という名前を担っている標本(ここではシンタイプ)は4つ残っています。
- 標本 ZMB 6294(ZMB: フンボルト大学動物学博物館, ドイツ)
- 標本 ZMB 6281
- 標本 MCZ 11619(MCZ: ハーバード大学比較動物学博物館, アメリカ)
- 標本 AMNH 23537(AMNH: アメリカ自然史博物館, アメリカ)
それぞれの採取された場所は
- ZMB6294 とMCZ 11619が、ナミビアの北部のダマラランド
- ZMB6281 が南アフリカ・Transvaal 地方の Gerlachshoop(現在のフロブレースダル)
- AMNH23537 が南アフリカの Botschabelo(現在のミッデルバーグ)
です。
ZMB6294とMCZ11619とそれ以外の産地があまりに離れているため、タイプ標本に標本に違う種類が含まれている可能性があります。
この場合、現在の Breviceps adspersus という名前が見直されるかもしれません。
アメフクラガエルの亜種の存在
亜種とは、『同種の中で違う地域に分布していて』、『形や生態的な特徴に明らかに違いがあるもの』を言います。
長い間、ヤブフクラガエル(B. pentheri)がアメフクラガエルの亜種とされてきました(亜種の場合は B. adspersus pentheri)。
しかし最近のDNAに基づく解析の結果、アメフクラガエルとヤブフクラガエルは遺伝的に離れた種類であることがわかったので、今では別種とされています。
アメフクラガエルの特徴
形と色
アメフクラガエルはずんぐりとした体型で、手足が短いのが特徴です。
頭は短く、吻(鼻先から口元まで【フクラガエルの生物学】参照)は丸みを帯びています。
鼓膜は外からは見えません。
Frogs of Southern Afirica によれば、オスは最大4.7cmメスは6.0cmになります(平均は3.5cmと5cm程度)。
指の間に水かきがありません。後ろ足の内側と外側の指は幅が広くなっています。足指の根本から最初の関節が出っ張っています。
背中の模様は茶色を基調として、明るい黄色かオレンジ色の斑点が1対あります。暗い斑点やしみも見られます。ときには淡い背中線がある個体もいます。
お腹の皮膚は滑らかで、時々いくつかの黒い斑点がある以外は白色です。
お腹の皮膚は水分を吸収しやすいように非常に薄く、時々内臓が透けて見えます。
特にメスは卵があると、大きくて黄色くて丸くて目立つので、すぐにわかります。
喉には2本の縦縞があるか黒くなっています。顔には目から脇の下にかけて黒い帯があり、この帯が明るい白線で喉の斑点と区切られています。
Frogs of Southern Afirica によると『オスの喉は暗い斑点または均一な黒で、中央で白い縞模様で区切られていること多い』とあります。(上の写真のオスは確かにそう)でも、実際にはこの特徴はあまり当てにならないように思えます。
基本的には、オス・メスは大きさで見分けることがほとんどです。
鳴き声
アメフクラガエルは、短い脈打つようなホイッスル音を 3 つ回以上鳴くのが普通です。
オスは天気が悪くなる前や雨が降った後の夕方暗くなり始めから、ときには雨上がりの昼間に鳴きます。
アメフクラガエルの鳴き声(広告音)
アメフクラガエルは、カエルの体の深さくらいの浅い窪みや植物の根元で鳴きます。地中の巣穴からは鳴かないようです。
餌と生活場所
餌は小動物。主に節足動物、特にアリやシロアリを食べています。
サバンナや草原の半乾燥生息地に生息しています(主にサバナ気候・温暖冬季少雨量気候)。【フクラガエルの生物学】を参照してください。
砂質土壌から砂質ローム土壌に好んで生息します。
サバナ気候の、草原、農地、都市の庭園などに住んでいます。森林には生息しません。
アメフクラガエルは本当に市街地にも普通にいます。
でも最近の都市開発で、その生息地はどんどん減っているようです。
例えば下の図は1時間ちょっとで数十匹のアメフクラガエルが採取できる街中の空き地です。
この空き地が今は…
こーんなショッピングモールになっていますからね。
アメフクラガエルがいる都市部の空き地はまだあるのでしばらくは大丈夫だと思いますが、もし野生のフクラガエルを見たい!という方はなるべく早めに行ってみるのがいいですね。
繁殖
繁殖期
アメフクラガエルの繁殖期は、雨季の初めの4-6週間と言われています。具体的には11月終わりから1月初めまで。
僕が現地に行った12月上旬から中旬には抱接したペアや地中の巣に産卵された卵塊が観察されました。
産卵と卵
アメフクラガエル(に限らず、フクラガエルは)地中に巣を作ってその中で産卵します。【フクラガエルの生物学】を参照してください。
一度に最大で50個程度の卵を産みます。卵はオタマジャクシが子ガエルになるまで何も食べなくてもいいように、栄養(卵黄)をたくさん含んでいるため、カエルとしてはとても大きな卵を産みます。(直径 5.5 mmぐらい)
メスは、子ガエルが地上に出る準備ができるまで、巣のそばに留まるといわれています。特に世話をするわけでもないようなので、なぜ巣の近くに残っているのかは不明です。
ふくら博士の個人的見解としては、クチボソガエルと別れる前の祖先が持っていた性質が残っているのかもしれないと考えています。(地中の巣でうまれた卵が孵化してオタマジャクシになった後に水場に運ぶために巣にメスが残っている)
他の種類との区別
まず、サバナ気候(温暖冬季小雨気候を含む)に生息していることでコビトフクラガエル(B. bagginsi) ・モドリフクラガエル(B. carruthersi) ・モザンビークフクラガエル(B. mossambicus) ・ンドゥムフクラガエル(B. passmorei) ・パワーフクラガエル(B. poweri) ・キノボリフクラガエル(B. sopranus)と区別できます。
なお見た目では、モドリフクラガエル・ンドゥムフクラガエルとは識別できません。
顔目の下の目立つ黒い帯模様があることで、イチゴフクラガエル(B. acutirostris)・ヤミフクラガエル(B. fuscus)・ ケープオオフクラガエル(B. gibbosus) ・サバクフクラガエル(B. macrops)とは区別できます。
お腹の皮膚が滑らかで白くて斑点がないこと、外側の指の長さと太さが大体同じことで、イチゴフクラガエル(B. acutirostris)・ブランキーフクラガエル(B. branchi)・サバクフクラガエル(B. macrops)・ナマクワフクラガエル(B. namaquensis)・ スナフクラガエル(B. rosei)・カナシフクラガエル(B. verrucosus)と区別できます。
目が体に対して小さめなこと、水かきがないこと、ブランキーフクラガエル(B. branchi)・サバクフクラガエル(B. macrops)・ナマクワフクラガエル(B. namaquensis)と区別できます。
アメフクラガエルは、短い脈打つようなホイッスル音を3回以上連続して鳴くことが、ヤブフクラガエル(B. pentheri)と違います。(パンテラフクラガエルは、短い高音のホイッスル音を1回もしくは2 つ組で鳴きます)
分布域
アメフクラガエルの分布は非常に広く、 南アフリカの東ケープ州からモザンビーク南部、ボツワナ、ジンバブエ、ザンビア南部、ナミビア北西部、アンゴラ北西部と言われています。
しかし、南アフリカの東ケープ州の分布は、過去にアメクラガエルの亜種とされていたヤブフクラガエルの分布ですので、東ケープ州には分布はないと思われます。
また南アフリカとモザンビークの海岸地域も気候帯が合わないため分布していないと考えられます。
モザンビークと南アフリカの海岸沿いの国境あたりには、モドリフクラガエル・ンドゥムフクラガエルが分布しています。
レソトの東側にもアメフクラガエルの分布は見られないようです。
さらにナミビア・ボツワナとアンゴラの国境線付近までは、DNAに基づいてアメフクラガエルの分布が確認されています。
一方で、それよりも北部のアンゴラでの分布はアメフクラガエルではなく、2020年に新しく記載されたアンゴラフクラガエル(Breviceps ombelanonga)のものである可能性が高いです。(Nielsen et al. 2020, ZooKeys 979: 133-160 参照)
つまり、フクラガエルの分布はこれまでに考えられているよりも狭いことになりますが、それでもフクラガエルの中でも最大の分布域をもっています。
系統的位置と近縁種
2018年に発表されたNielsenたちのDNAを用いた解析によると、フクラガエル属は遺伝的に大きく2つのグループに分かれます。
一つがNielsenらがいうところの『モザンビークフクラガエルグループ』で、もう一つが『ケープオオフクラガエルグループ』になります。
アメフクラガエルはモザンビークグループに入ります。モザンビークグループの中では、パワーフクラガエルの次に枝分かれした比較的古い系統になります。
さらに、アメフクラガエルは、モザンビークフクラガエルとフィシューフクラガエルに近く、この2種とはおよそ1500万年前に系統的に分かれたことがわかっています。
つまり、アメフクラガエルに最も近い現生のフクラガエル種は、モザンビークフクラガエルとフィシューフクラガエルになります。
まとめ
さて、アメフクラガエルについて解説しましたが、如何でしたでしょうか。
おそらく日本語では全く情報のないことばかりだったと思います。
かなり学術的な内容を含んでいますが、面白いと思っていただけたなら幸いです。
今回の解説の中でも、アメフクラガエルの標本と基準産地については、別の記事でより詳しく書こうかと思います。【アメフクラガエルは本当にアメフクラガエルなのか?標本と基準産地の問題】
また、フクラガエルの系統進化と種が分かれた原因についても別の記事にまとめたいと思っています。
では、次の記事にご期待ください!